まめ
 これは我が家のリビングに、まめが降り立ったときの写真です。
 まるでアポロ11号のアームストロング船長が、慎重に第一歩を月
 面に踏み出した時のようにといいたいのですが、まめは軽やかに
 ピョンと飛び降りたのです。
 その瞬間からなにも恐れることなく、わがもの顔で家の中を闊歩
 し始めました。というのも、先代のキキがここで5年間暮らしてい
 たから、まめには初めての場所という感じがしなかったのかもし
 れません。

 まめが来たのは2004年12月25日。その5年前がキキ。あわせて
 1999年秋からのうさぎたちとの暮らしを、行きつ戻りつしながら紹
 介しようと思います。


 ■「ボク、もう待てないんだけどな…」
  この言葉が決定打になりました。自分のことをボクと呼んでいた娘が
  つぶやいたひと言が、家の中に漂っていたペット・モヤモヤに決着を
  付けたのです。
  そりゃそうです。いつかね、今度ね、と曖昧に先延ばししてきたうさぎ
  を飼うことが、ボクの心の中ではもう限界に来ていることは分かって
  いましたから、すぐにホームセンターへ車を走らせたのです。
  ホームセンター?! そうなんです。そのころのペットショップは犬・猫・
  小鳥が主流で、うさぎとかフェレットなんて選ぶほどもいません。いた
  としても白い毛で赤い目のうさぎたちだから、痛々しくてとても毎日見
  てられません。
キキ
 

店 長
 ■実は、いつかこの日が来るだろうと、チョット遠くのホームセンター
   に目星を付けておいたのです。第2次ホームセンターブーム?の
   ころで、大工道具や日用品どころか門扉、神棚、熱帯魚まで扱っ
   ていましたから、うさぎを探すなんて軽いもんです。
   レッキス系なので、容姿はOK。でもチョット大きい。片手には無理
   かな、う〜ん。迷っていると、
   「そのくらいが飼いやすいですよ。初めてなんでしょ」
   と、声をかけられたのです。振り返ると、胸に店長プレートを保安
   官バッジのように輝かせた人が立っていました。太い眉とよくとお
   る声で「初めてなんでしょ、じゃあ女の子にしましょう」と言われると
   ミョーに説得力があります。その流れで、ハイと素直に答えてしま
   いました。

  ■こうしてキキは我が家に来ることになったのですが、うさぎの生態が
   分かっていない。予習もあまりしていない。イカン、欲求を満たすだけ
   の目的で生き物を飼おうとしている。ナンテコッタと自己批判をしてみ
   てももう遅い。どっちみち予習には身が入らなかったんだ。
   まぁいいか、暮らしてみなきゃ分らないこともあるんだしと、店長にキ
   キを連れて帰れるようにお願いしました。
   ゲージOK、すのこOK、飲み水OK。えさッ?! 袋入りのペレット状に
   なったラビットフードは分かるのだが、これだけでうさぎは365日充
   実した食生活が送れるのだろうか。この店ではどうしてたんだろう。
   すかさず店長が、「不十分ですね。でもコストがかかるから、私が出
   勤前に野草を摘んできてやってたんですよ、ハハハ」
 

  ■ええっ、野草を?出勤前に摘む?
   そりゃ店長は売る側だからハハハって軽く笑ってすませられるけど、
   こっちは買う側だよ。しかもさっき言ったじゃないか、デリケートな生
   き物だから餌は急に変えない方がいいって。そう言いかけて言葉を
   呑み込んだ。
   不満げな物言いはやめよう。それに一度買うと言ったんだ。武士に
   二言はない。武士ではないけどそう思ことにしたのです。
   連れて帰れば「うさんぽ」をさせてやれる環境にはない。ならば時々、
   野草からでも外の臭いを嗅がせてやろう。頭のどこかでそうも思っ
   ていました。しかし野草ならナンでも食べるんだろうか。単純に「ウサ
   ギ=ニンジン」という貧しい概念しか頭に浮かんでこないのです。

  ■ま、タンポポ系統を一番喜びますね。それから稲の仲間の野生の
   牧草かな。ナルホド、と想像はできたもののそれが年中野原にある
   とは思えない。大丈夫ですよ。よく見ると冬でもタンポポの花が咲い
   てたりするでしょ、春先ほど目立たないけどこれが結構あるんです。
    そういって微笑んだ店長の、うさぎのような前歯が印象的でした。出
   勤前に摘み続けた自信がみなぎっていて、ナンとかなるもんさと威
   嚇されているようにも見えたのです。
   よしやってみよう、うさぎに教えられることだってあるかもしれない。
   段ボール箱に入れられたキキを車に乗せるころにはそう思うように
   なっていました。
微笑む店長

  
外来種          在来種
  ■不思議なモンです。あんな小さなうさぎ一匹のことで、外を見る目は
   一変しました。とりあえずタンポポです。稲の仲間の牧草では分かり
   にくいので、タンポポ、たんぽぽ、タンポポの毎日です。季節は秋の
   終わりなので不安だった
   のですが、その気で探すと店長のいうとおり結構見つかるもんです。
   空地や線路脇の土手、コンクリートで固めた斜面の隙間など、散歩
   の犬がおしっこをかけてなさそうなところをねらって、少々の雨でも出
   かけるようになりました。キキが喜んで食べてくれることがなによりな
   のですが、こちらも惜しげもなく母乳を与える母親のような気分を味
   わっていました。そして、タンポポにも外来種と在来種があって、この
   季節のものはほとんどが外来種だということもそのとき識ったのです。

    ■言い出したことが現実になって、ボクは満足です。餌やりとゲージの
   掃除に不安は少々あるものの、可愛い生き物が目の前で、想像した
   以上に「うさぎの動き」をしてくれるのですからウットリです。
   キキもゲージから出ると、用心深くあちこちの臭いを嗅ぎながら、これ
   から暮らす自分の場所の情報収集を怠りません。しかも部屋の真ん
   中は避けて、家具や壁伝いにクンクン、ペロペロ。そして時々、オシッ
   コです。
   おいおい違うんじゃないの。店長の話だと、キミはゲージの扉さえ開
   けておけばちゃんと中へ戻ってスルはずなんだけどな。と、とりあえず
   キキをオシッコに近づけて、床をドンと叩き「いけません」と伝えること
   にした。大きな声で叱るのは簡単だけど、人の声を怖がらせてはイケ
   ません。

    ■基本、うさぎはトイレを憶えます。それは店長のいうとおりでした。ただ、
   うれしくて興奮したときとか、自分のゲージやリビング全体になれるま
   では、チョットやる。マーキングの要素があるのかもしれません。ウン
   チは鉛筆の断面くらいの●。体調が悪いと小さくなり、元気なときは
   よくやったとほめてやりたいくらい。しかし、楽しく走り回っていて急ブ
   レーキをかけたときにもポロッと2or3個落下させる。仕方がない。
   取り外しできるゲージの底に古新聞を一枚広げて、その上に吸水性
   のペットシートを敷く。さらにその上に、足が挟まらないような木製す
   のこを入れたゲージをセットして、小屋は完成。あとは給水皿とえさ
   箱を入れれば立派なモンです。さてトイレは?

    ■市販されているうさぎ用のトイレは、プラスチック製の三角コーナー
   のような形が多い。しかし、これをゲージの隅に置いて、自分がうさ
   ぎになったつもりで想像してみると、どうも“あースッキリした”という
   気分になれそうもないのです。もともと野原でそのまんまだった習
   性のことを考えると、やはり用を足す姿勢とおしりの感触に無理が
   ある。やめよう、少々すのこが汚れても毎日掃除をしてやれば、三
   角コーナーよりは快適だろうと思ったのです。
   こうしてキキは、ゲージの一角をトイレと決めて生活を始めました。
   うさぎのオシッコはカルシウムが多いので、すぐに白く固まります。
   そこでスプレー瓶を2本用意して、1本には酢を入れてカルシウム
   を溶かし、もう一本には木酢液を薄めて入れ、除菌と消臭効果を期
   待しました。
トイレ

    ■ひと月もしたら、キキは新しい生活に慣れたようです。しかし、ず
   いぶんリラックスしているように見えても、この姿勢を崩さない。骨
   格の都合で後ろ足は揃えて横に出す。クリッとした目と、凛とした
   この姿勢が印象的です。同じうさぎでも2代目のまめは全く対照的
   で、すぐにゴロンと横になる。この子には枕がいるんじゃないかと、
   ホントに思ってしまうくらい見事に仰向けになってくれる。
   キキがくつろいでいたある日、その横を通って驚いた。キチンと揃
   えて横に出した後ろ足の間から皮膚が見えてる!ええっ、そこだ
   け毛が抜けたのか?それとも皮膚病?立ち止まって考えた。それ
   にしては様子がおかしい。そぉっとのぞく。あっ、店長が嘘をつい
   た。なにが初心者は女の子だ!!!!   

    ■キキが男子であると判明して、実は少し気が楽になったのです。
   いくらうさぎとはいっても、女子にはやはり気を使う。まして凛とし
   た姿勢を崩さないキキですから、あからさまに股ぐらをのぞき込
   むことはできません。しかし、立派なオイナリさんを2個発見した
   からにはもう気を使うことはありません。「よっ、男はつらいナ」で
   済んじゃいますから。
   ある日、思い立って来るべきだった方のキキを見にホームセンタ
   ーへ行きました。小さなゲージの中で、少し大きくなっていたもう
   一羽のキキは病気のようでした。毛が抜けて元気がない。もしも
   家へ来ていたら・・・そう思うと、なんだかせつない気分で帰ってき
   ました。