《私の本棚 第十四》    1998年(平成10年)5月
       
    「黴」    徳田秋声 
 
  正直に言って徳田秋声(参考)のこの作品は、読んでいるとついつい夜更かしをしてしまうと言うよう なものではない。極

めて読みづらく、あまりにも日常的すぎると言う感じがする。

 
話がいきなり飛んで、イメージとして浮かんでくる余裕を読者に与えない様な個所が多い。「笹村が妻の入籍を済ましたの

は、二人のなかに産まれた幼児の出産届と、ようやく同時くらいであった。」と言う書き出しで始まるこの作品は、何となく一

緒になった二人の生活を淡々と表してはいるが、「何か」を感じることが難しい。

 
 自分の読解力が不足しているのかも知れない。この作者や作品を解説している人に、江藤淳と川端康成がいる。江藤淳

の評はかなり手厳しい。「夏目漱石はこの作品を朝日新聞に推薦した人であり、好意的であるが、彼の作品である『道草』

と比較すると視点があまりにも低い。漱石には見えている人物の背後が、秋声には見えていない。」と言っている。一方川

端康成は好意的であり、「すらすらとは読み進めないうえ、集中して読まないとのみ込みにくい。しかしこれは、秋声がよく

言っていた『作品の密度』のためと思う。」と評している。また、日本の小説は源氏に始まって西鶴に飛び、西鶴から秋声に

飛ぶ。とも述べている。

                                  

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平野神社 花見のあと 
         
 
宴の後

平野神社

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